「予想以上にすごい人手だな」

 驚嘆と少しの高揚感をこめて、シズは言った。その後ろで立っている黒髪の少女も、目を少し大きく開いて、その人込みを眺めている。

「エルメス君を連れて来れない理由が、わかっただっただろう?」
「…ええ」
「まあ、エルメス君にはうるさい護衛がついてるから、心配しないで」




水色透明キャンデー・a ―Magical Candy・a―




 そこは、夜店が各々両側に、並木のように並ぶ道だった。その道は幅が広く、果てしなく長く続いていて、地平の彼方まで人込みが直線的に伸びている。
 宵闇に浮かぶ夜店や紙製のランプの明かりと、人々のプラスな熱気が、心地よく辺りに満ち満ちている。

「人込みは嫌いかい?」

 シズが振り返って尋ねる。

「…こういう雰囲気なら、そんなに嫌いではないです」

 少女は淡々と感想を述べた。

「なら良かった」

 その言葉に満足したか、シズは子供のように満面の笑みを浮かべた。

「それにしても」

 少女をまじまじと見つめて。

「浴衣、それにしておいて良かった」
「そうですか?」

 少女は両手を少し上げて、視線を落として自らの出で立ちを見る。
 深い藍の生地に、アラベスクと蝶が鮮やかに映えている浴衣。確かに、少女によく似合っている。

「気に入らない?」
「別に。ただ、動きづらいです」
「でも本当に、よく似合っている」

 シズは感慨深げに、微かな笑みをたたえて。

「綺麗だよ」

 そっと素早く、その小さな耳をあま噛みする。

「シズさん」
「ん?」
「いい加減、移動しないと。こんな道のど真ん中につっ立っているのは、迷惑ですよ」
「…そうだね」

 シズのその言葉と同時に、彼の足を強く踏んづけていた少女の足が離れた。



 一本道を歩いていくと、両脇から様々な色彩が目に入ってくる。
 ガラス細工や、何だか妙に色鮮やかなライトのようなもの、ビニールでできた人形など、色々なものがたくさんあったが、大体の店は、食べ物を売っているようだった。何だか見慣れないものが多い。
 シズが、何かを買ってきた。小麦粉や卵やタコを混ぜたものを、丸い溝がいくつもある鉄板で焼かれた食べ物だった。
 美味しいよ、とひとつ勧められたが、丁重に断った。



「何か気に入った夜店はない?」
「どれも気にはなりますけど、持ち合わせがあまりないので」
「君の気に入ったものなら、いくらでも奢ると言っただろう?」
「お断りします、と言ったでしょう?」

 そんなやりとりの中、二人は道を歩いていって。
 ふと、少女の目が一点に止まった。








-preface-
はい、ここまでお疲れ様でした。
この小説は、さる方の「初代キノ=シズ様の兄」という設定を使わせていただきました。
ちなみに、Z巻前に作成したものなのであしからず。

とある方の「水飴っていい道具だよね」という、神のような発言から、この小説はうまれました。
まったくもって、そのお方の言う通りです。目からウロコ。
このキノさんは、まだシズさんにあまり心を許していませんね。

言葉の表現の使い方を、頑張った記憶があります。なるべく透明になるように。



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